形成外科の縫合
形成外科医は傷の縫合に非常に長けています。縫い方も丁寧で、縫い幅も非常に細かく、一般外科とは縫合の仕方も違います。以前は「形成外科」という診療科を知らない方も多くいらっしゃいました。しかし最近は最初から形成外科を受診し、よりきれいな縫合を望まれる患者様も増えています。
◆ 傷跡はなくならない?
よく患者様に「先生、傷はなくなりますか?」と質問されます。この質問に対する答えは「傷はなくなるのでなく、目立たなくなります」、あるいは「よく見てもわからなくなります」というのがより正確でしょう。形成外科医は日々、傷をいかに目立たなくするかを考え、手術を行っています。しかし今の医療技術では、“傷”を消し去ることなど決してできません。手術によってついた“傷”もなくなるわけではありません。もちろん個人の体質なども傷跡の残り方には影響します。たとえばケロイド体質の人がケロイドの好発部位に傷をつければ、あるいはそのような場所で手術を行った場合、傷が目立つ結果になります。従って事前に、その患者さんの肌質などをしっかり観察する必要があります。また縫い上がりの傷が、人の体の“シワの走行”に沿うようにデザインすることも重要です。そうすることで、傷を目立ちにくくすることができるからです。
◆ 縫い跡の比較


縫い幅が広い→縫い跡・傷跡が目立つ
縫い幅が狭く、細かい→縫い跡・傷跡が目立たない
◆ 真皮縫合とは


形成外科では何層にも傷を縫い上げますが、その一つのテクニックに真皮縫合があります。形成外科医は皮膚表面(表皮)だけでなく真皮(しんぴ)、皮下組織(脂肪組織など)と 2層にも3層にも縫合し、傷の部分を“より強固”に縫い上げていきます。真皮は表皮のすぐ下の組織で、厚さ約1.5mm~2.5mmのコラーゲンを主体とする弾力のある層です(イラスト参照)。真皮縫合では表に糸を出さず、あくまでこの真皮を縫い合わせるため、後々傷が目立たなくなります。形成外科では施術の随所で、この“真皮縫合”を行っています。
◆ 真皮縫合の手順
形成外科や美容外科(特に形成外科を学んできた医師)では、ナイロン糸を使用して表面を縫合(表皮縫合)するだけでなく、傷に長期的なtension(緊張)が加わることを避けるため、「真皮縫合」と呼ばれる特殊な縫合を行います。「真皮縫合」とは表皮のすぐ下にある真皮層を互いに縫合することで、傷への長期的なtension(緊張)を予防し、傷を目立たなくするために行うものです。
真皮縫合を行った糸は通常抜糸せず、表皮縫合のナイロン糸のみを抜糸します。
*体内に真皮縫合を行ったナイロン糸は残りますが、通常問題はありません。まれに排出されて出てくる場合があり、そのような場合は抜糸します。またごくまれに排出された糸に感染を起こし縫合糸膿瘍になる場合がありますが、適切に処置すれば問題ありません。
1 表皮の部分を鑷子というピンセットでつまみ、ひっくり返します。そのまま下から上に向かって、 真皮の深い層から浅い層に向かって針を出します。
2 今度は上から下に向かって、真皮の浅い層から深い層に向かって針をすすめます。
3 2の状態で糸を結ぶと、結び目が組織の中に埋まります。
4 皮膚同士がくっつき、表に糸は出てきません。
写真左① 写真右②

- ①ネックリフトの真皮縫合の縫合時です。皮膚同士がしっかりくっつき、糸は表に出ていません。
- ②さらに表皮縫合を行い、補強します。右の写真が表皮縫合の縫合時です。とても細かく縫っていることがわかります。
写真左③ 写真右④

- ③施術後1カ月です。縫合した部分がまだ少し赤いですが、ほとんど目立ちません。
- ④赤い点線をつけた部分が③の傷跡です。
形成外科ではこのような真皮縫合をほとんどの手術で行っています。